昼顔さんの体験談 №3                 .




縄に酔う男



禁断の園に・・・

(壱)




 程なくすると、締め込みの赤い布を束ねて股間に当てたM氏がカーテン

の端を払ってプレイ室から出て来ました。顔は桜色に上気させ、潤んだ目

は伏せ目加減で私の前を通り過ぎる彼を見上げ目で追うと、背部や二の腕

にはクッキリと縄の跡が、縄の捩りの縄目の跡が付いていました。臀部は

赤く染まっていました。

 

 其の縄目の跡を見た私は、日常の世界に引き戻されていました。家族の

事、就中、妻の顔が頭を過りました。縄目の跡は何時消えるのだろうか・

・・ 消える前に夫婦の営みを求められたら・・・ 如何な言い逃れをし

たら良いのか・・・ 愛撫し愛撫される中で、如何に閨の照明を落とそう

とも、夜目にも解る筈。打撲の跡ならいざ知らず、直に身体に付いた其れ

も縄目の跡・・・。其の時ふと、想いを馳せてしまいました。事後の、即

ち後先の事に。

 

 M氏は談話室を出て行きました。見送りながらの私は、後悔の念が沸々

と沸き起こり始めていました。この儘出ようかとも思っていました。如何

に妄想の果てに願望嵩じた末にではあっても、所詮は束の間の性のお遊戯。

 家庭を失う事になるのではと、家庭ばかりではなく、それなりに築いて

来た社会性をも失うのでは、其れに至るのではと、表の日常の世界に引き

戻されていました。

 

 今なら間に合うであろう、出ようか・・・と考えつつも、一方ではプレ

イ室で垣間見た処の、奇麗に束ねられ整然と壁の架台に掛けられた各色様

々な縄の束、麻縄や化繊の縄の束を思い浮かべていました。壁際の器具棚

に置かれた様々な責め具の中に、ティッシュの函の様な其れから引き出さ

れかけた医療用の薄いゴム手袋や、そしてコンドームの束を見て覚えた清

潔感、所謂セーフ感に、この機を逃したら何時・・? 或は永遠に機を得

るのは出来ないのでは・・・? 揺れ動いていました。

 

 バサッと云う音がカーテンの向こうから聞こえて来ました。プレイ室に

残り後片し中の
S氏が、使った縄を扱き束ねる前の、其の不規則に束ねた

縄を床に一旦投げ落とす音でした。仕切りのカーテンを一瞥した私は、額

装して壁に飾られた男絵を、男の責め絵を見上げ見詰めました。屈強な男

の身体には縄化粧が施され、其れは誇張して描かれたと思しき男の怒張、

漲りに、そして睾丸にまで及んでいました。刀の柄巻にも似た怒張への縄

化粧でした。

 

 後片しを終えたS氏がプレイ室のカーテンを払って談話室に戻り、私の

向かい側にドッカと腰をおろした
S氏は初対面の私に目の色で会釈を送り、

私も小さく返しました。やがて
M氏も談話室に戻って来ました。意外でし

た。プレイを終え、達し終えて精を放ち終えた其の
M氏は、その侭退室す

るものとばかり思っていた私は意外に思えていました。

 

 「熱いシャワーを充分に当てた・・?」と尋ねるお相手を務めたS氏に、

「・・・ええ・・・」と周囲を憚る面持ちを僅か見せ乍ら
M氏は答え、問

S氏の隣に腰をおろして「ふ~っ・・・」と大きな息を吐きました。M

氏の顔は、羞恥の中にも充足感で満ちていた様に私には見えました。

 

 私の隣の熟年S氏が、「熱いシャワーを浴びたら縄目の跡は直に取れま

す・・・」「直に・・とは語弊があるかも・・・」「ですが凝視さえされ

なければ解らないくらいになりますよ」「勘が鋭い方は別ですが・・」

「全く消え失せるには数日掛かるかも知れませんが、体質次第ですが」と

囁き教えてくれました。

 

 向き合うM氏が、「妻帯為さってらっしゃるのですか・・?」と遠慮が

ちに呟く様に質し掛け、私が小さく頷いて答えると、「一番??の懸念か

も」と彼は返しました。私も頷いて返しました。居合わす若い
M氏二人は、

備え付けのゲイ雑誌を手にしてページを繰っていましたが、時折は誌面を

見詰める顔をあげ、そんな会話の私達や二人の
S氏を一瞥する視線を送っ

ていました。所謂チラチラ、チラ見でした。

 

 談話室に静寂の時が流れました。事後の余韻、被虐プレイの余韻と共に、

精を放って果てた男の悦びを得た事後の休息感に浸るかの様に、
M氏が吐

く吐息のみが妖しいまでに支配するのみでした。

 

 懸念していた一つが払拭とまではいかずとも、身体に着けられた痕跡、

縄目の跡に対する懸念が些かなりともではあっても解決の思いであった私

は、縛られたい、縛られてみたい・・・ との想いが再燃し始めていまし

た。

 

 ですが私の口から願い出る事など出来ようには勿論ありませんし、団鬼

六の小説、花と蛇のヒロインの遠山静子に下されたシチュエーションこそ

がと、其れこそが私が想い願い、妄想し続けた自身の性的被虐の性(さが)

であると描き続けていた私は、座卓の上に積まれた数冊のゲイ雑誌を手に

取り、見るとはなしにページを開きました。 手にしたのは
SMに趣を置い

た「さぶ」誌でした。カラーグラビアは緊縛された男の羅列でした。

 

 隣の熟年S氏の手が私の太腿から胸へと、見るとはなしに見詰めていた

「さぶ」誌を遮る様に、薄い体毛の腕を差し伸ばして来ました。私は其の

熟年
S氏の顔を一瞥しました。笑みを湛えた目には濁りも無く澄んだ色で

した。 束の間の行きずりの、そして緊縛と云う身体の拘束に身を預け委

ねたとしても、信頼出来るとまではいかずとも、何かしらの安心感を覚え

ました。

 

 彼の手指は直に乳首を弄り始めました。「さぶ」誌を胡座の下肢に置い

たままの私は周りを見回しました。二人の若い
Mさんは雑誌に遣る目を上

目遣いにして私を、事の成り行きを窺っているように思えました。 プレ

イを終えた二人の内の
S氏は私を見詰め、M氏は事後の虚脱感や安息感、

達成感から一変、妖しい性の目で私達を見詰めていました。

 

 四人から事の成り行きを見詰められた私は、乳首を弄られながらの私は、

性の刑場にこれから引き据えられる想いに駆られてしまっていました。熟

S氏の彼が胡座の下肢から雑誌を取り上げるかの様に取り払い座卓に戻

しました。

 

 私は観念を決めました。意識してではなく、身体が無意識の内にそうさ

せていた様です。

 

 肩をそっと叩かれた私は、座卓前の座布団から腰をあげました。


                                         つづく 








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