昼顔さんの体験談 №4                 .




縄に酔う男



禁断の園に・・・

(弐)




 熟年S氏(以下、彼とします)から肩を抱かれてプレイ室に入りました。

壁の架台に掛けられた無数とも云える各色に染められた縄の束や、器具台

に備えられた各種の責め具、妖しい赤色光で灯し出された室内・・・ 建

築現場の足場材で壁に這わせて櫓(やぐら)が組まれ、其れには滑車が取

り付けられて縄が通されていました。 このまま突き進んでも良いのだろ

うか・・ 尚も逡巡の気がまだ残っていました。

 

 常々焚かれていたと思しきお香の香りの中に、仄かな栗の花の匂いを私

は嗅ぎ分けました。これまでに大勢の男達が、哀しい性(さが)の男達が、

此処で・・・ 縛られ責められ、悶え喘ぎ嗚咽しながら、啼き叫びながら

・・・ 絶頂の頂きに達して放ったであろう其の精の匂いであろうと私は

思いました。

 

 未だ女々しく逡巡の思いの中で私は部屋の中央に立ち竦んでいました。

胸の鼓動は早鐘を打つまでに、いえ、其れ程ではないものの、ドキドキ感

を覚えていました。此処は男同士で暫し性の渇きを癒す場、束の間の
SM

プレイの場、其処に引き出された私・・・ 女々しくあってはいけないと

気を奮い立たせた・・? いや、そうではなく、静子に、花と蛇のヒロイ

ン静子に思いを馳せていたのではないのか、自身に静子を重ね合わせてい

たのではないのか、そんな思いが私の頭の中を駆け抜けていた様に思いま

す。 瞬時ではあっても駆け回っていた様に思います。

 

 静子になろう・・・ 私は静子・・・ 男女の仕分け・区分けに関わら

ず、私は受縛体、性の被虐体。 そして同性愛の嗜好対象者である処の、

年長者で熟年で、尚且つ紳士然とした彼が目の前に・・・。 一方では小

説「昼顔」のヒロイン:セヴリーヌ・・・ 医師の妻としてなに不自由無

い日々を送りながら、抗えない自身の性癖で娼館に身を投じたセヴリーヌ

・・・ 或は、私は男娼・・・ そんな思いに囚われていた様に記憶しま

す。 未だ女々しく逡巡する胸の内を、逡巡を振り払う様に。

 

 彼が身体を寄せ、両腕を背後に回して強く抱き寄せました。彼の肌の温

もりに、同性愛の褥に際しては須く、所謂ウケであった私は何とは無しの

安堵感を覚えていました。

 

 「初めての時は皆同じ・・・」「緊張してるのは無理ないけど・・」と、

私を抱き寄せた彼は耳朶に息を吹き掛けながら囁きました。同時に、肩や

二の腕、そして背部へと、彼の両手が這い回り始めました。 私の身体の

緊張を解すかの様な手の動き、這い周りでした。 (身体の柔軟を確かめ

窺う為にだったと、今ではそう思います)

 

 私は仕切りの黒いレースのカーテンを見遣りました。二人の顔がレース

を通して窺えました。 視られてる・・・ 私の性癖は、視られたい、羞

恥の姿態を晒されたい・・・
とする私の性癖は突き動かされていました。

 

 身体を離した彼の両手は私の両の乳首を捕らえ、捻り転がしを始めまし

た。 強く摘まれた時の痛感に、私は小さな喘ぎの声をあげました。乳首

は勃起を呈していました。彼は人差し指の腹で乳首を弾き、「反応が良い

ですね」「感じるでしょう・・?」と、相も変わらずの丁寧な物言いで囁

きました。 目を閉じていた私は数回頷いて答えました。

 

 彼が離れた気配がし、バサッ・バサッと乾いた音が低く聞こえました。

縄束が床に投げ落とされた音でした。私はピクッと身体を反応させた様で

すが、目は閉じたままでした。 「何方がお好み・・?」「私は赤い縄が

君には似合うと思うけど・・」と囁かれた私が目を薄く開けて見ると、赤

と紫の二つの縄束が床にありました。私は彼の問いには答えず、黙って二

つの縄束を見詰めていました。 尤も、答えようもありませんでしたが。

 

 縄の束を解いた彼は、扱きながら長い縄の中央を見計らい、其処を私の

首に掛けました。ひんやりとした縄の感触でした。赤く染められた麻縄で

した。実際は其れ程の冷たさはないのでしょうが、あろう筈もないのでし

ょうが、私にはヒンヤリとしていた様に感じられました。

 

 其れからの事は良く覚えていません。シュッシュッ、シュルシュルと云

う縄の音や身体を擦る感触の中で、時には縄尻が床に落ちる音の中で、彼

の息遣いの中で、私の身体には縄模様が施されました。 素早い手捌きで

した。 あっと云う間の早業だったと思える程の縄遣いでした。 いや、

私がそう感じたに過ぎないものかとは思いますが、彼の手捌きに澱むとこ

ろは無かった事は確かであったと記憶します。

 

 菱縛りでした。永年恋い焦がれ、夢想し妄想もし、願望に至って久しか

った私の受縛、やっと叶った其の瞬間は、何故か感慨はありませんでした。

冷静であったのか・・? いえ、それはありません。 恋い焦がれ、想い

猛々しい程であったればこそ、逆に感慨の感情が鳴りを潜め(?)たのか

も知れませんし、感慨に浸る暇も無かったのではと思います。

 

 上体にのみ施された菱縛り、両の上肢下肢は自由でした。未だ縛められ

てはいませんでした。私は自由になる腕で、両手を胸を隠す様に押し当て、

親指の腹で乳首を転がしていた様です、自らで。

 

 「緊縛されての自慰が・・・拘束されての手慰みが好きなのかな・・?

お望みなのかな・・?」と囁き乍らの彼は、菱縄掛けの縄尻を、其の両の

縄尻を股間に潜らせ、グッと引き絞って背部の縄に結わえ付けました。鼠

蹊部に加えられる緊縛感や圧迫感は絶妙でした。 キツ目に締めた六尺の

比ではありませんでした。 股間縛りでした。

 

 痛い程に漲り赤い締め込みで包まれ、そして抑えられた私の勃起の左右

を通った縄で、怒張は更に強調されているのが解りました。

 

 視たい・・・ 己が姿態を・・・赤き縄で縛られた己が姿態を・・・ 

視たい、確かめたい、そう思っていました。


                                         つづく 








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