克爺さんの 体験談 №20           .




新・男色への道


(10)(最終回)


征ちゃんは知り合った頃から比べると、体力の落ち込みがかなり進んでき

たように思えます。

相変わらず口だけは達者ですが。

 

特に最近は顕著に現れています。

草花が好きでベランダには所狭しと鉢が置いてあります。

 

11時過ぎ携帯に突然の電話、「こんな時間にどうしたの?」と話を聞く

と、ベランダで鉢を移動していたのだが、足元がふらつきそのまま仰向け

に倒れてしまったらしいのです。

しばらく動けずやっとのおもいで起きあがり、土を被ったりしたので風呂

に入って休んでいてそのまま寝てしまったのだが、手や首の痛みで目が覚

めたらしい。

 

近所に住む妹さんに連絡しょうと思ったらしいが時計を見ると10時を過ぎ

ており、悪いと思いつつも私に連絡をしてきたのです。

 

車を飛ばして直ぐに向かいました。

部屋に入ると布団の上に座り込んでショボンとしている征ちゃんがいまし

た。

 

とにかく話を聞きながら身体の状態の確認です。

よく見ると首の後ろに擦ったような傷、手には何本ものサボテンの棘が刺

さっていました。

 

棘抜きはないというので取り敢えずコンビニに行って、一緒に縫い針も購

入それからが大変でした。

針で棘を起こして挟んで抜く作業に「痛い、痛い」と額に汗を滲ませて耐

えていました。

 

応急処置を終わると「明日一番で医者へ行って」と言い横になるのを確認

して家に戻りました。

 

他にも夕方薄暗くなってから散歩に出掛け転んだと電話をもらい急いで行

くと、顔を打ったと額と鼻の頭に擦り傷、両手にも小石の跡が凹んでいて、

それよりも前歯の差し歯がなくなっていました。

この時ばかりはさすがに医者に連れて行き、頭のレントゲンを撮ったり傷

の治療をしたりと、でも大事には至らず一安心、妹さんとも連絡がとれた

ので後をお願いして帰って来たこともありました。

 

それからは定期的の通院、買い物、諸々の用事など私の時間の許す限りは

付き合うようにしてます。

 

征ちゃんの家に何をしに行くのかと訊かれたら、今では介護ヘルパーの仕

事で行ってますと答えるくらいの付き合いになっていました。

 

日曜日に行くと、昼ご飯、晩ご飯を作ってあげるんです。

手作りの食事が食べられると喜んでくれるし、私も嬉しいし何よりも血糖

値の為には食事が大事だからです。

 

いつ頃からか私の心の中に何をやってるんだろう、征ちゃんって自分にと

ってどういう位置づけなんだろう。

最近は一緒に寝てても何もしないし手も出してくれない。

 

いつものように泊まって月曜日の朝早く目が覚め隣の征ちゃんの顔を見て

ると、何故か急に淋しくなり気づかれないように部屋を出て家に帰ったの

です。

 

家に着いてからメールを送った。

「最近は自分の方を向いてくれないね。

すごく淋しいよ。

少し時間を下さい。」

 

そして二日後電話をかけました。

何度かけても出てくれません。

怒ってるのか、それとも具合でも悪いのか居てもたってもいられずマンシ

ョンに向かったのです。

 

下から部屋を見上げるとカーテンが閉まってます。

出掛けているのか車で待つことにした。

30...1時間...帰って来た様子がない。

もう一度電話した。出た。

 

「こんにちは」

..._」

「今どこにいるんですか?」

「家にいるよ」

「行ってもいいですか?」

「話すことはないよ」

「でもこのままじゃ...会って下さい行きますから」

車を駐車場に入れて部屋に向かった。

ドアを開けてくれた。

 

「何しにきたの?」

「このままじゃ終われないよ、あんまりだよ」

「克ちゃんは怖い人だ、目を覚ましたら居ないし部屋中探した外へも出て

探したよ」

「メールに気付き見たら何なのあのメール。今だからこうして居られるけ

ど、もっと歳とっていたらショックで死んじゃってるよ」

 

泣きながら訴えてきた。

聞いてる内に自分の思いやりのなさ、征ちゃんへの身勝手な行動に気付か

された。

 

「征ちゃんごめんなさい、ごめんなさい」

「もうこの歳になると自分が思っているように動けないんだよ、克ちゃん

もその時になるとわかるよ」

 

私は征ちゃんを抱きしめ言葉もなく泣くだけでした。

お互いに抱き合いオイオイと泣き続け顔は涙と鼻汁でグシャグシャでした。

 

やがて気持ちも落ち着き

「征ちゃんこれからも来ていい?」と涙声で聞くと

「決まってんじゃないか、他にだれが居るんだよ」

「ありがとう...本当にごめんなさい、ありがとう」

 

二人の心はまた一つになり、さらに強い絆が結ばれた出来事でした。

 

あの日からもう半年になろうとしてます。

いつまでも、そして一日でも永く元気でいて欲しい。

 

幸せです...



                         ( 終わり )








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