股爺さんの体験談 №1             .




性事も政治的



何年か前の晩秋、浅草某店、カギの手カウンターの奥の端の止まり木で、

白岳のウコン茶割りをセルフサービスで作ってました。客は10人位分の

椅子に半分、適当に歌合戦してますと、重たいドアが静かに開き、客たち

の視線は一斉にそちらへ注がれる。

 

ちょいと渋めで押しの強そうな七十チョイ過ぎくらいで、山形勲にかなり

似た威丈夫。脱ぎかけた、よれたアカスキュータムのコートが何だか刑事

コロンボみたいで、好ましく、そそられる。

 

“山形勲爺”は奇特にも、そして珍しくもわが隣り席をお選びになり、愚

爺も思わず『ラッキー!』と心のうちで叫び、ときめき、お互い話し込ん

で意気投合し、見つめ合い、膝や手の甲に触れ、ウルウルとなり暫定的に?

惚れ合い、どちらからともなく「店を出ようか」とひさご通り脇のジメジ

メ和風、昭和遺産的な逆さクラゲへ。

 

話しているうちに、“山形爺”はアラ喜寿で元小学校の教師、確信的独身

でおられ、住まいは我が住まい沿線の中核都市郊外にお住まい、などが判

明。「お互い近いね、今度遊びにおいでよ!」と誘っていただき、一週間

後には“山形爺”の公団分譲マンションを尋ねることとなり、わが住まい

近くに相方が出来そうな予感がしつつ、近場交際でよかったなあ!と、や

や功利的?な気持ちもありつつ、思うのでした。

 

で、某交通要衝駅のモニュメントで待ち合わせ、バスの後部座席では早く

もムラついて、手を背に回し、お宅を訪ね、玄関のドア閉まるか閉まらぬ

内に抱き合い深ベーゼしつつお部屋を一瞥。家財や衣類は散らかり、キッ

チンも自炊の様子なしで即席麺のカップなどが箸入れたまま片付けてない。

どうやら完全に一人暮らしらしい。

 

“山形爺”、爺の手を引っ張り寝室へ導くや、いきなりパッパと脱ぎにか

かり、愚爺は『風呂か、せいぜいシャワーは浴びないのかなあ?』と思い

つつ、気が弱く口に出せないと言う自己嫌悪に陥りつつベッドに倒れこめ

ば、干して無さそうな布団に擦れて裂けてるシーツ。

 

小一時間、マッタリとして浅草某店顔出し約束の時間も迫り、リビングの

四脚椅子に座り、時計を気にしつつ常温の缶珈琲をいただき、大壁見れば

名曲喫茶もかくやといった巨大スピーカーがしつらえてあり、真空管アン

プなどもありそう。次回あたり、シャワーを主張して、ツーショットで肩

組み聴かせてもらいたいものとコレクション見れば、ショスタコーヴィチ

や印象派あたりから名もしらぬ作曲家の現代音楽が多く、内心『あれっ!』

と微かな違和感。

 

そしてベランダから住宅街の間に間に覗く田園をみながら足元に目を遣れ

ば、「戦争法案反対」と書いたプラカードと赤い鉢巻きや古色然とした文

言のゼッケンやメガホンが置いてあり、それらを見た瞬間、永遠たるべき

尊い愛や近距離愛の夢が醒め、何かの予感。バス停まで見送り頂きながら

「今度はゆっくり泊まりでおいでよ!」と固い握手しながら仰っていたた

だくが・・・。

 

例年、六月になればカウンターの歌合戦のどさくさに紛らして「アカシア

の雨が止むとき」や「黒い花びら」「いちご白書・・」などを歌ってる愚

爺なんですが、世界や時代の変化、遥か時のながれと言いますか、自分で

もわけの解らぬ、名状しがたい心の動きや矛盾。

 

話は全く飛びまして、日曜の朝、報道ワイドを覗いてますと、ここのとこ

ろ物騒な世相を背景に、アチコチの局によく顔を出すようになった、元自

衛艦隊司令官・香田洋□氏がゲストに呼ばれてる。総白髪短髪の、絵に描

いたようなタカ派顔にして胸厚コワモテですが、極々まれに見せる含羞の

愛嬌ある笑みがよござんす。そして何故か失言閣僚に可愛い爺がいます、

嫌な輩も多いですが、その後任の素朴・実直な感じの某復興相も結構であ

ります。

 

あれから数年、法案も成立し、“山形爺”と邂逅したカウンターは昨晩秋

にはクローズしてしまい、今はどこの止まり木で飲んでらっしゃるのでし

ょうか。愚爺は歳を重ねるごとに保守化、否ただ老化するのみのようです。

 

(おしまい)

2017.5.28










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