美篶さんの体験談 1                .




盆 栽



毎日開く「老いのときめき」のとびらを飾る素晴らしい盆栽の挿絵を見て

いて、そして先日のあの一件を契機に30年以上も昔に思いが至り、私の

体験を書いてみたくなりました。

念の為に申しますが裏絵の「春満開」の方ではありません。私の春はとう

の昔に過ぎた?んですもの。

もっとも当時は40代後半でしたから春真っ盛りでしたが……。




1.カイズカイブキの根連なり                    .

        

年齢が80歳近くなってくると、身体のあちらこちらにほころびが出てき

て医者通いが多くなります。だから、投薬が質量ともに多くなり、その副

作用なんでしょうか身体がふらつくのです。

そこへ持ってきて、私はお酒が大好きで、飲み始めると止めることができ

ません。陶然とした気分になると、必然的に身体は大揺れにゆれて足元が

おぼつかなくなり、一人で立っているのがやっとという状態です。

ちょっとしたことで転んでしまいます。

 

4月18日は、当地区のお花見でした。

高冷地にもやっとお花見の季節が巡ってきたのです。

裏絵のような春満開の桜吹雪の下で、昼から花見酒が始まり、2次会、3

次会と回って家に帰り着いたのは深夜。

 

玄関の手前でよろめいて、入口に飾ってあった植木鉢もろとも倒れ込んで

しまいました。

幸い怪我はなかったですが、鉢の方は惨めなことになり、それが契機で今

年の鉢の植え替え作業が始まりました。

 

 

私が盆栽作りを始めた33年前の動機について話します。

そのころ、地方の工場に出向になって土帰月来の生活になってから、ふと

思いついて始めたのです。

 

出向中は単身赴任でした。

会社勤務時間以外はこれといってやることがなく、毎日の余暇を持て余し

ていました。特に夜の営みがなくなっていた私は、朝早く目覚め、始業前

の時間の処理に苦慮していまいた。

 

元々土いじりは好きでした。

卒業した学校も植物関係の学校でしたが、そのころ「近代盆栽」という月

刊誌を購読していました。そこに掲載されていた「木村正彦の盆栽作り」

というシリーズにヒントを得て、この空いた時間を利用して「盆栽」を作

ってみようと思い立ったのです。

 

「盆栽」を購入して鑑賞するなんていう財政的なゆとりがあるわけはない

ですから、僅かな費用で出来るこの盆栽作りを考え出したのです。

そのころ、誌上でもてはやされていたのは「真柏」と称する「イブキ(ビ

ャクシン)」の仲間の「ミヤマビヤクシン」でしたが、私はこの近縁の

「カイズカイブキ」に目をつけました。

掲載した画像は、生家の坪庭の垣根にしてあった「カイズカイブキ」を取

り木したものです。

果樹の「梨」の「赤星病」を媒介するからということで、家を改築の際伐

採することがわかったので、下枝を土中に伏せて取り木をし、鉢上げをし

ました。

 

私の手始めに作ったものの中の一つです。

この樹種は、もう生家には残っていませんから、その意味では良い思い出

になっています。

 

 

私は自分の作った鉢物に「盆栽」という言葉は使いません。「鉢植え」と

か「植木」と言っています。

盆栽に夢中になりだしたころ、私の好きな大先輩がたずねてきたときのこ

とを思い出します。

 

上司として私を厳しく育て、幹部社員にまで引き上げてくださったお方で

した。

尊敬もしていましたが、密かに恋い慕っていた人です。

 

私が自慢げにとくとくと製作過程を話すのを聞いていた先輩が、途中で私

の話を遮りました。

「お前の言わんとすることはよくわかった。だけど、お前さんの生業は何

なんだか考えてごらん。変なものにうつつを抜かしていたんではダメだ。

頭を冷やして考え直しなさい。盆栽づくりのプロの真似をするだけの金が

あるんなら、わしは何も言わん」

「……」

 

「違うだろう。見よう見まねでやるのをとやかく言うのではない。

だが、お前さんが造っているもの、そんなもの盆栽とは言わないよ、単な

る植木なんだよ」

と言われて目が覚めました。

 

おかげさまで深入りしないで済んだのかもしれません。

以後うっかり「盆栽」といっても「鉢植え」、「植木」と言い直すように

しています。

ですから、私の肩がこらない趣味として続けられてきたのです。

 

 

先輩は、残念ながら、もう20年も前にお亡くなりになってしまいました

が、明るい性格の方で話が大好き、先輩のいらっしゃるところはいつも明

るく輝いていました。

歯に衣を着せずにズケズケおっしゃることは素直に受け取れ、いつも私の

前途に光明を灯して下さるようなお方でした。

竹を割ったような性格の歯切れの良い物言いが未だに耳に残っています。

 

ぼくはそのお方が好きでした。恋していました。

体調を崩されたとき、魔除けとして良いということを聞き、僕の作った大

きなスズメバチの巣の玄関飾りを届けたりしましたが、残念な結果になっ

てしまいました。

 

過日所用があってお邪魔したとき、未だに玄関に飾ってあるのに気がつき

ました。奥様も気に入っていらっしゃるのかもしれません。

(続く)










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