美篶さんの体験談 6                .




盆 栽






6.年月巡りて                         .

奔放に生きていた彼氏が絡んだエゾマツのことを書きます。

北海道へ行った時のことでした。

観光バスの中では居眠り三昧の彼氏は、あたりが薄暮に包まれる頃になる

と俄然活発になるのです。

まるで夜行生()物のような可愛いやんちゃな人でした。

 

 

その晩も早々宴会を切り上げて

「さあて『すすきの』へ繰り出すぞ……。札幌まで来て行かないって手は

ないからなあ、さあ行こう」

「……」

私が黙っていると

「どうしたの?男だろう?だらしがないなあ、それとも怖気づいたの?

あんたには盆栽の苗探しの方が似合っているんだな……、じゃ行ってくる

からな」

と、言っていそいそと出かけました。

 

そうです、その頃の私は、旅先でいろいろな鉢を買い求めるのが楽しみで

した。

今回の旅行にはこの春枯らしてしまったエゾマツを買って帰ろうと思って

いたのです。

そして、その日の昼食を摂った土産店の店先にあった、エゾマツの苗木を

買い込んでいました。背丈が15cmにも満たない実生のミニポット植え

を5本も……。

 

私は何故か彼のように異性に対する関心がわかないのです。

職場旅行のたびに覗いていたストリップ劇場にも、慣れてしまうと、不潔

感の方が先行して行く気になれず、宴会のあとは按摩さんに身を委ねるこ

とに興味を覚え始めたのです。

まだまだ初心で世慣れていなかったものですから(今でも初心なつもりで

す)、指名なんてことは思いも寄らず、たまたま来た男性の按摩さんに揉

まれながら、心をときめかせていました。

 

 

帰社後、早速植え付けることにしたのですが、植え付ける段になって、今

まで育てていて枯らしてしまったエゾマツと、どことなく雰囲気が違うの

に気づきましたが、苗木だからこんなものだろうくらいに考えて植え付け

た筈です。

 

たまたまそのとき、コメツツジを貼り付けて置いたけど枯らしてしまった

からいらない、といってもらった大きな軽石がありました。それを使って

植えてみようと思いたち、その軽石の頂上と中腹そして鉢中に3本植えた

物の、30年たった姿が添付した画像です。

 

鉢の中に植えたものはその年のうちに枯れました。

中腹に植えたものも4〜5年後に枯れてしまい、頂上に取り付けたものだ

けが生き残ったのです。

 

近年になって、エゾマツとは違うのではという疑念がますます強くなり、

北海道の代表的なエゾマツ、トドマツ、アカエゾマツの3樹種を比較して

調べた結果アカエゾマツではないかという結論に至りました。

軽石の上に、ぽつんと一本だけバランス悪く立っているのでは可愛そうだ

と思い、周辺にシナノナデシコやイワチドリ、ホトトギス、フイリゲンジ

スミレなどをあしらい、そのときどきの変化を持たせています。

 

 

今回、ここまで書いて投稿しょうと思ったのですが、どうしてもこの木の

ことが気になり改めて図鑑と首っ引きで調べてみました。

 

とんでもないことに気がついたのです。

アカエゾマツだなんてとんでもない間違いで、ただのコメツガだったので

す。そこまで分かって、はっと思い至りました。

当時北アルプスの蓮華岳へ登っことがあるのですが、その帰りに苔むす樹

林帯に生えていた実生のコメツガを持ち帰ったのです。

 

北海道から買ってきたエゾマツが枯れたあと、このコメツガを植え付けた

に違いありません。名札さえつけておけばこんなミスはなかったでしょう

が、名札もなくなり長年の間に記憶が飛んでしまって、入れ替わっていた

のでした。

 

とんだ茶番劇で、まさにボケの始まりのさらけ出しです。

しかし、こうした現実は「老いのときめき」を訪れるみなさんの中にもあ

るのかな?なんて思ったものですから、これも体験談のうちとして、ボツ

にせずに残すことにしました。

 

私が管理している鉢は、長年の冬の寒さに耐え切れず枯死したものとか、

地へ放したなどで当時の4分の1位に減っていますが、もっと面倒を見て

あげなければ……と思っています。



                           ( 完 )









トップ アイコン目次へもどる      「体験」へもどる
inserted by FC2 system