美篶(ミスズ)さんの体験談 13                .




遭 難

(4)



4日目

朝、雨は引きも切らず続いていた。陰鬱な気分で天気の回復を祈り、待った

が一向に好転しない。そのうちに何組かのパーティーが下山してくるではな

いか。

聞けば台風の余波で大雨になり、このままでは登山は無理だから降りるのだ

と言う。中には「あなたたちも下りたほうが良いと思うよ」と忠告してくれ

る人もいた。

 

緊急相談の結果「北アルプス命名のもとになった槍ヶ岳の矛先は征服できた

んだから、下山したほうが賢明だ」と言う意見の一致を見、「上高地発最終

バスは16時だから今からなら間に合う」と言うことで穂高岳登頂をあきら

めて下ることにした。

今夜のうちに帰れると言うことになったら、皆元気になり予備の食料を処分

して下り始めた。

 

横尾橋の袂までたどり着いて驚いた。川の流れは昨日と様相を変え濁流と化

しており、丸木橋にはH大の山岳部と名乗る人たちがロープを張ってひとり

ずつ誘導しながら渡してくれているのだった。

聞けば少し前に地元の高校生が転落して流され行方不明になったとのことだ。

仲間の顔が恐怖にゆがんだ。

どうやら渡ることが出来て帰りを急ぐのだが、幅広い登山道のほとんどが川

のようになって、ところによっては脛まで水に浸かって歩かなければならな

かった。

途中の山荘には目もくれずひたすら上高地に向かって歩いた。

 

15時半ころやっと上高地に着いた。ほっとしてバスターミナルに行き、乗

車券を求めようとしたが、またまた悲劇が待っていた。

上高地線が崩落事故で不通になっていると言うのだ。

「どうしよう」皆へなへなとへたり込んでしまった。テントを張る気力なん

てなくなっていた。

 

そのときB君が言った。

「たしか小梨平のキャンプ場の中におれの母校の常設テントが張ってあるは

ずだ、そこへ言って頼んで見る。」

みんな藁にもすがる思いで彼のあとに付いて行った。

テントに泊めてもらえることになってまずは一安心、疲れた体を横たえなが

ら明日の善後策を練った。

 

A君から提案があった。

「徳本(トクゴウ)峠を越えて帰ろう」

地図を指し示しながら続けた。

「このバス路線が開設されるまでは峠越えで上高地に入ったんだそうだ。今

でも使われているそうだから道はしっかりしているはずだ」

他の人が逡巡している時、グループの中で一番気短なE君が言った。

「おい、飯は明日の昼飯の分しかないんだろう。ここを越えていかなけりゃ

あおれたちは飢え死にするんだぜ」

 

この一言で決まった。明日早朝テントを出発すれば夜遅くにはB君の家につ

ける。全員明日を思い描いて早く眠ることにした。

そのE君は一昨年鬼籍へ入って今は亡い。

続く











トップ アイコン目次へもどる      「体験談一覧」へもどる
inserted by FC2 system