振り返り


                                         山さん 



今年も色々なことがあった。

また色んな人との出会いもあった。

その中でも感激したことが2,3あった。

そのひとつは20年前に付き合っていた彼氏(今年88歳)との再会であった。

お互い20年来音沙汰なしだったので、もう再会はあきらめていた。

遠く離れてしまったからだ。

今年の秋ごろだった。突然電話が鳴った。

「山ちゃん、栄吉だよ、覚えているかい」

「えっ栄吉さん、あの栄吉さん・・本当に」

山の心は騒いだ。久しぶりの興奮だ・・・

「どうしたのかい、栄吉さん」

「今、どこにいるのかい?栄吉さん」

「山ちゃん、今、山ちゃんの住んでいる町のホテルだよ」

「村の農協老人クラブの旅行で山ちゃんの町に来ているんだ」

「明日帰るので、今夜ぜひ逢いたいだ、ひと目だけでも逢いたい・・」

「承知したよ、栄吉さん」「今から急いでそちらへ向かうよ」

「やまちゃん、ホテルのロビ−の喫茶室で待っているよ」

急いで仕事を終わらせてホテルへと車を走らせた。

あの頃、栄吉さんは60歳後半だったので、今は80歳後半のはず・・・

あの頃の栄吉さんはお米作りなどの農作業で毎日が忙しかった。

そんな中、2人は連日連夜の逢わせを楽しんでいた。

しかし私・山の海・山を越える遠い地域への転勤のため、別れることにな

った。

どうしようもなかった。

年賀状や電話で近況を知らせようと思ったが、そのままになってしまって

いた。

あれから20年、山は時々栄吉さんのことを思い出しては

「もう生きていたら80歳後半に入っているはずだ。もう呆けたかもしれ

ない。

 それから病気になり農業の仕事も引退しているかもしれない・・・持病

の腰痛で歩けないかも・・・」

そんなことを思い浮かべていた。

 ・・・・

ホテルのロビ-の横にある喫茶室で栄吉さんはポツンと座っていた。

山が喫茶室に入ってきてもすぐには気づかなかった。

山には栄吉さんがすぐに分かった。

手を振った。

栄吉さんがじっとこちらを見ている。かなり目が悪そうだ。

山は急いで栄吉さんに近づいた。

栄吉さんはじっとこちらを見つめた。顔の表情が変化した。

驚きの顔は嬉しさと喜びそれに驚きで一杯になり、小さな目は大きく開き

そうして一気に涙で溢れていた。

「何故、電話もくれなかった」

「山ちゃん、変わらないねぇ」

「栄吉爺は88歳になっちゃたよ、山ちゃん」

お互いに顔を撫であい髪の毛をさすった。家族のように、親友のように、

そうして恋人のように・・。

栄吉さんは部落の一番の長老となり公民館長など

村の重要な役割をしているとのこと・・まだまだ現役だった。

「死ぬ前に山ちゃんに逢えて栄吉爺はもう心残りはないよ」と話してきた。

それだけでも嬉しい一言だった。

抱きしめたい、強く抱きしめたい・・・。

栄吉爺さんを寿司屋に誘い、夜道を2人手をつないで歩いた。

気の合う2人だ。根っからの好きもの同志だ。

冷えたビ−ルで乾杯し、特上の寿司を注文した。

「栄吉さん、長生きしていてよ」「きっとまた逢えるからね」

ホテルでは老人クラブの夜の宴会もあるようだ。

栄吉さんは老人クラブの会長もしているので長居はできないといった。

明日の電車で帰るから・・とも話してきた。

寿司屋を出てホテルまで送ることになった。

途中、神社の境内に入り暗い隙間の路地に入り、熱いくちづけをした。

短い時間だったが永遠の時が流れるような気さえした。

このままいつまでもくちづけしていたい。

・・・・

20年前の栄吉爺さんとの出会いは真に素晴らしかった。

生きる喜びを感じた。生きてる喜びを感じた。

そんな栄吉爺さんはもう88歳。

88歳の逸物も神社の神の前で口に含んだ。

最高の味わいだった。

88歳の性を味わった。これこそ宝だ。

山の心に確かに存在する財産だ。

栄吉さんとの再会もまた素晴らしい人生のひと時だった、生の喜びだった。

やはり気の合う2人だ。

ぴったりとはまる鍵と鍵穴のような関係

ぴったりとはまる刀と鞘の関係

ありがとう栄吉さん、あなたとの出会いで素晴らしい人生を送ることがで

きました。

 ・

 ・

今年の栄吉さんとの再会は本当にこの上もない喜びのひと時であった。

今年の振り返りの中での心に残る出来事でした。





トップ アイコン目次へもどる      「男大好き・体験」へもどる
inserted by FC2 system