田んぼの玄さん


                                         抱念 さん 


(2)


「今夜うちぃ来い‥そしたら教せえてやるで‥」

玄さんは義孝にそう言った。

 

 

まだ日が暮れるには小一時間はある。西の山影に橙色の夕焼けが美しかっ

た。

そして、義孝が玄さんの家へ行った時には、まだ千住畑で野菜に水をくれ

ていた。

 

「玄さん、まだやってるだかい‥」

義孝が垣根越しに声をかけた。

 

「おぉ来たか‥すぐしまいにするでな‥、先に入()ってろ‥」

義孝を家へ促した。

 

 

「汗かいて気持ち悪りかったで脱いで来た‥」

しばらくして玄さんが上がって来たけれど、その格好はツナギを手に、六

尺褌一本の裸だった。

 

「先に風呂ぃへえるが、義孝背中流してくれるか‥」

そう言うだけ言うと、玄さんはさっさと風呂場へ消えた。

 

いつも麦わら帽子を被っている玄さんのおつむは白髪の坊主だが、頭頂部

はほぼ無毛だった。そして袖まくりした二の腕と首筋はもうすでに日灼け

して黒い。

晒しの六尺は緩すぎずキツすぎず、緊縛感がない代わりにだらしなくもな

く、いい按配の締め方で実に恰好がいい。そりゃそうだ、百姓して来たの

とおんなじ年つき、玄さんと一緒にいるのだから。そして百姓仕事で備わ

った筋肉が、なにかの拍子にふと小気味いい表情を見せる、贅肉の無い締

まった体をしている。

 

籠の一番上に、解いたそのまま、汗としょんべんを吸った褌が、前袋のシ

ミと撓みもなまめかしく放ってあった。

 

「入()ぇってこい‥遠慮するこたねえ‥」

そう言ってまた玄さんは鼻唄を続けた。

 

引き戸が開いて義孝が入って来た。

五尺四寸、小柄な体に丸坊主のやんちゃな顔が乗っかっている。中学高校

で野球をやっていただけのことはある。コリっとした筋肉が身体のそこか

しこにまだ残っている。そして、さらに年を重ねた分の脂がそこに乗って

きた。古代ギリシアの遺跡から発掘されたトルソのように美しかった。

 

野球部で仲間と皆で裸になることも度々だったからか、義孝は別に恥ずか

しいとも思わず、玄さんの前でもちんぼを隠さない。

そのちんぼはきれいに剥けて、鏃(やじり)のようなエラが張った亀頭が、

身体の割りには長い竿の先に、ぶら下がっていた。

 

「おめもここぃへえれ‥」

義孝は湯をかぶり、玄さんが開けてくれたところへ腰を下ろした。

ざザァ‥

湯船から零れてゆく。

決して広くはない湯船に大の男が二人だと、さすがに肌が触り合う。

 

玄さんが立ち上がった。義孝の目の前にいきなり勃起したちんぼが突きつ

けられた。水平よりも十度かそこら上向きで、その様はとても七十二とは

思えない。

 

「玄さん、すごいっ‥」

 

「おめとこすれたでこんねになっただぞ‥ふぁっはッハッハ‥」

玄さんらしく屈託がない。

 

「六尺締めるってのは、こいつを押さえてなきゃならねえってことだ‥」

(俺だってまだまだだぞ‥)そう言いたいのか、芯が入ったちんぼを握って

見せた。

 

「義孝、背中流してくれ‥」

カランを跨いで簀の子に腰を下ろす。

 

「勃たなくなったらそん時ゃ六尺とおさらばかなあ‥」

根っから六尺が好きな玄さんはちょっと寂しそうだった。

 

泡立てた手ぬぐいで義孝に背中をこすってもらって、玄さんは気持ち良さ

そうにしている。

 

「ありがとな‥、こんだおらがやってやる‥」

湯船から手桶で掬った湯を掛けてもらって、義孝と交代した。

受け取った手ぬぐいを濯ぎ、石鹸を塗りなおして、小柄な義孝の背中を擦


った。

 

玄さんがふと手を止めて石鹸を拭う。

(義正とおんなじだ‥)

左のわき腹に、ひと目で判る黒子があった。

 

「玄さん、どうかしただかい‥」

 

「義孝はいい体してるだな‥」

わき腹をつまんで知らんぷりを決めた。

 

「いい風呂だった‥」

濡れた背中を拭いてもらって玄さんは嬉しそうだ。

 

「どうせ締め方教せえてやるだでこのまんまでいいずら‥」

二人ともフルチンのまま玄さんの寝間へ行った。

 

電気を点けると万年床が延べてある。そしてその奥、壁の正面に、連れ合

いがむかしに持ってきた、姿見にもなる立派な鏡台が天井の灯りを映して

いる。

玄さんは年季が入った桐の箪笥から晒しの六尺を二本出して持って来た。

 

「新品じゃねえけどな‥ちゃんと洗ってあるでな‥あぁッハッハ‥、‥お

らが締めるでよぉく見てろよ‥」

 

玄さんが六尺褌を締め始めた。

 

片一方の端、たたみ皺が付いた辺りを顎に挟んでちんぼをくるむと、尻を

割り右の腰骨の上を通してそのままうしろまでぐるっと回した。そして後

ろ褌に引っ掛けて横褌へ二三回巻く。

そして、顎に挟んでた方を外して前袋をかっこ良く整えると後ろへ回し、

尾骨の辺から後ろ褌に絡げて三四回巻きつける。横褌との交差点まで来た

ら右へ二三回巻いて、おしまい。

 

なんとも手際が良くて、ものの一分と掛からない。

 

(俺はこんなにかっこ良くできるかなあ‥)

義孝は玄さんに惚れぼれした。



                                                続 く 







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