築地の親爺たち


                                         抱念 さん 


第六話〜口移し


ダイニングテーブルを囲んだ四人のじゃれあいがようやく引いた。

 

「誠っ、お前が嘉ァさんをかわいがってやれ‥、一番若いから一等始めだ、

なっ‥」

勇はそう言うと誠と嘉輔に声をかけ座敷へ向かい、仏間に襖を立てた。

 

「さあ、ここに布団が入ってるから敷いた敷いた‥四本川に並べてくれり

ゃいい‥掛け布団はいらねえな‥ふわっはっはは‥」

 

そう言うと、勇は片側だけ襖を引いて明かりを採ってやると、佐三と飲み

直しに戻った。

 

「嘉ァさんはいってぇどんなシとなんだい‥、手ぇ握っただけなのになん

であんな心持ちになるんだ‥」

 

「ニイさん、俺も今日初めて会ったばかりだよ‥、それにしたって、誠だ

けじゃなくて俺たち二人ともだからね‥」

佐三は目をまるくした。

嘉輔と手を握り合うと不思議なパワーだかなんだか知らないが、そういう

ものが伝わってくる。

 

 

「あっあぁ‥ああ‥」

ンちゅッちゅッちゅ‥

「ああ‥ああぁ‥」

座敷から嘉輔の喘ぎ声と二人が口を吸い合う音が聞こえてきた。

しかし、そんな淫らな声音を平気で聴いていられるほど佐三も勇もまだ枯

れてはいない。

 

「ニイさん、俺ももよおしちまったよ‥、となりへ行っていいかい‥、い

けねえて言っても行くけどね‥」

グラスと椅子を持って勇の横に座った。

 

「ニイさん、俺にもキスしてくれよぅ‥いいだろう‥」

佐三が甘えて言った。

 

「バカ野郎ぅ、甘えてんじゃねえよ‥、おめえ酒はもう要らねえのかい‥」

 

「ニイさんに、飲ましてもらいたいっ‥」

 

勇は佐三の顎をつかみ斜っかいに口を合わせて、含んだ酒を佐三の口へ

そゝいだ。

うっとりした佐三の顔。

それを見なれた勇だが、何回何十回見ても、初めて会ったころのあのかわ

いい佐三が勇の前に現れる。そうしていつもどおりそのころへ連れて行っ

てくれるのだ、そう半世紀も前のあの頃へ。

 

「もっと飲むか‥」

 

「うんもっと飲みたい‥もっと飲ましてニイちゃん‥」

 

佐三は嬉しかった。

もうどれだけ飲ませてもらったことだろう。

それが何回なのか、何升なのか、そんなことは知らないが、ニイちゃんが

飲ませてくれる酒より旨い酒は無いのだ。周りに誰が居たって、いつだっ

てそうして飲ませて欲しい、このごろはずうっとそう思っている。

 

「ゴクっ‥ゴクっ‥」

佐三が勇の舌を吸い、喉を鳴らした。

 

「そんなにうめえか‥、おめえとはもう随分なげえなあ‥、でもよ、オレ

たちはずうっとこうして来たし、これからだってこうやってゆくんだろ‥、

なっ、そうだろ、佐ァ‥」

勇が佐三の舌を思いきり吸った。

 

「アッあーンッ‥痛いよ‥」

佐三がうるんだ目で睨んだ。

 

「痛いじゃないか‥」

佐三が楯突く言いっぷりを聞くと、ふたりは疾うにいつかの昔へ帰ってい

る。

 

 

「なあ‥オレたちゃもう五十年にもなるんだろ‥」

 

「なに言ってんだよニイちゃん‥もうとっくだよ‥」

 

「ほうぉ‥そうかぁ‥もうとっくかあ‥」

勇が感慨深そうだった。

 

「オレが組頭に抜擢されて、佃佐へ挨拶に行った時だったよな‥お前は大

学出たばかりの新米だったなあ‥、生意気で青臭さかったけど、キリッと

格好いい野郎がいるてオレは思った‥、ちょうど裕ちゃんの映画がヒット

してたっけ‥」

 

「俺もさ‥ニイちゃんが来た時、役者が衣装のまんま買い物に来たのかと

思ったんだ‥、前の親方さんがあとから顔出さなけりゃ、きっとずうっと

そう思ってたと思うよ‥」

佐三がニヤり。

 

二十五才になるかならないかの佐三とその五つばかり上の勇、ふたりが初

めて出逢った時のことは今でもはっきりしっかり、ふたりの記憶に刻まれ

ている。

そしてその来し方を思い起こすと、事無く淡々。それもあっという間のこ

とだった。

 

「親父の友だちやそのつながりで、爺ちゃんの親方さんは大勢知っちゃい

たけど、ニイちゃんみたいに若いのは初めてだったからなぁ‥、爺ちゃん

も渋くてカッコ良かったけど‥ニイちゃんは全然違った‥、あんなに若い

のに親方になってさ‥カッコよかったなあ‥、丸坊主にちょびっと庇付け

ただけみたいな前髪でさ‥白ダボ腹掛け、纏い半纏に一本どっこ、股引に

雪駄‥雷蔵さんが抜け出てきたかと思ったよ‥」

お互い一目惚れした時のことを言いたい放題語ってる。

 

「ニイちゃん‥俺、ニイちゃんと逢えて本当に良かったって思ってる‥、

ニイちゃんが居てくれたからこうしてやって来れたし‥ニイちゃんに支え

てもらって今まで生きてきたんだよ‥、ありがとう、ニイちゃん‥」

佐三は勇の目をまばたきをせず見つめている。

 

「どうしたんだよ‥そんな目ぇして‥」

 

「なにも‥ニイちゃんが好きだから‥、キッスして、してくれよぉ‥」

佐三の声は甘えていたけれど、その裏には勇と生き、そして終えるのだと、

毅然とした決意がはっきり見てとれた。

 

「おめえはいっつもそういう目をするじゃねえか‥、オレがおめえのそう

いう目によえぇって知ってやがるくせによぉ、バカ野郎め‥」

勇の負けだった。

 

そうしてまた、佐三に酒を飲ましてやった、やさしく優しく、少ぉしずつ‥

 

「ゴックゴック‥」

佐三が喉を鳴らすその音が勇を焚き付けると、狂おしいほどに一気に燃え

上がるのだった。

 

「佐ァおめえが好きだぜ‥」

また舌を吸った。でも今度は強くない。 勇の舌が口の中を這いずり唇を

舐めると同時に、シャツの前をはだけて胸を撫ぜた。なめらかな肌を確か

めながら胸や腹を往ったり来たり。そして乳首に触れると佐三が揺れる。

これもいつもどおりだ。何度触れても、左右どちらに触れても、ビクビク

ッと、おもしろいように揺れた。

 

「ああぁ‥あッンふっ‥あぁあンっ‥あぁ‥ンふッ‥」

佐三の悶え声が、塞がれた口から間断なくもれて聞こえる。

 

チゅッチゅ‥チゅうッ‥チゅッ、チゅッ‥

 

キッスの囀りもまた天井にこだまする。

 

佐三の股間を見ると、越中褌の前垂れが翻って、テントが張っている。そ

して勇の六尺もまた、むず痒かったさっきよりその容積を増していた。



                                                続 く 







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