夕日丘


                                         夕凪さん 



その62 日曜日の夜



満足した秀介をホームに届けると、黄田さんがニコニコした顔で迎え、豊

に礼を言った。

ホームの職員に感謝されながら、豊はバス停に戻った。

家に帰ってみると留守電がたくさん入っていた。そのほとんどが東京に行

っている東次郎からのものであった。

『おまえのいない東京はつまらん』というものがあったが、最後には電話

に出ない豊に対して文句を言っているものが多くなった。

母からも電話がないので心配であるといっていたし、紺野さんも仕事が一

段落したら温泉へ誘いたいということを言っていた。

服を着替えて、歯を磨いた豊は明日の朝食の準備をして、早めに床につい

た。

明日から又、一週間が始まるのである。

楽しかった週末を思い、フルートの練習をサボっている自分に嫌悪しなが

ら眠りの世界へと旅立った。

ふと、誰かの気配を感じて目が覚めた。

電気がついている。

確か電気を消したのでは・・・と思いながら布団の上に起き上がった。

風呂場で音がするので、不信に思いながら風呂場へ行ってみた。

電気がついている、シャワーの音がする。

豊は驚いた。誰がいるのだろう?どうして家に入ることができたのだろう?

いったい何を目的にきたのかしら? 色々と頭の中で疑問が湧いたが、勇

気を持って声をかけてみた。

「お風呂場にいるのは誰ですか?」

「・・・・」

「ね、誰がいるの?」豊は返事がないので勇気を振り起こして風呂場のド

アーを開けた。

「お、お父さん! 何しているの?」

「や、豊。何をしているって、シャワーを浴びているんじゃ」

「それは解るけど、こんな時間に・・・」

「こんな時間と言っても、まだ9時だぞ」 

「え?あ、そう・・・」

「あまりお前が良く寝ていたんで、いくら起こしても起きないので仕方な

く1人でシャワーを浴びていたんだ」

「でも、東京は? 三郎さんは?」

「あ、あいつに急な用事ができたので、式典が終わると突然帰るというん

でわしも東京にいても詰まらんから一緒に帰ることにしたんだ」

「でも、よくここへ来ることが許可されましたね・・」

「うん、お前が電気を消すのを忘れていたんで、タクシーの中から三郎に

今晩豊のところへ泊まるといったんだ」

「でも、どうして入れたの?」

「ばかだな、以前、お前が合鍵をくれたじゃないか、わしは何時もそれを

持ち歩いているからな」

「なんだ、そうだったの。早く、体を拭いて!風邪を引くと困るから」

「ああ・・・」

「お父さん、夕食は?」体を拭いている東次郎に尋ねた。

「済ましたよ」

「じゃ、お茶を入れるね」

「頼む・・・」豊は思いがけない東次郎の訪問に心がうきうきとしてきた。

台所でお茶の準備をしているときに、一寸空腹感を覚えた豊はついでにお

茶漬けをかき込もうと思い、その準備もした。東次郎にお茶をいれて、お

茶漬けを食べようとしたとき、東次郎が頭を拭きながら台所へ入ってきた。

「何だ、お腹がすいているのか?」と驚いて言った。

「うん、すこしね。お父さんはどうする?」

「そうだな、わしも一寸食べたくなったな」

「じゃ、着替えてきてよ、バスタオルだけじゃ、風邪を引いちゃうよ」

「わかった」と言って東次郎は寝室のほうへ行った。

たくあんと白菜の漬物だけのお茶漬けであったが、東次郎はうまいといっ

てお変わりをした。豊が食器を片付けているとき、東次郎は寝室へ消えた。

豊が布団の中へ入ると、東次郎はかすかな寝息をかいて寝ていた。

豊はがっかりしたが、自分も草臥れては明日の仕事に差し支えると思い、

そのまま眠りの世界へ入っていった。



                                                    続 く 







トップ アイコン目次へもどる    「夕凪さんの小説一覧」へもどる
inserted by FC2 system